令和6年度 全国文化的景観地区連絡協議会平取大会(北海道平取町)

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更新日時:2024.10.10

1.大会テーマ

「地域らしさを継承する ‐歴史と風土に根ざした文化的景観‐」

2.主 催

全国文化的景観地区連絡協議会

3.協 力

平取町、平取町教育委員会

4.開催期日

令和6年10月24日(木)

5.会 場

沙流川歴史館(北海道沙流郡平取町二風谷227-2 TEL:01457-2-4085)

6.参加者

文景協会員、文化庁、一般

7.日程及び内容

10月24日(木)

9:00~ 9:45 受付
9:45~ 9:55 開会式
9:55~10:05 主旨説明
10:05~11:05 基調講演1
11:05~11:15 休憩
11:15~12:15 基調講演2
12:15~13:30 昼食休憩、ポスターセッション
13:30~14:45 事例発表 平取町ほか2地区
14:45~14:55 休憩
14:55~15:40 交流 アイヌ古式舞踊の披露ほか
15:40~15:50 休憩
15:50~16:10 文化庁感想、閉会行事


基調講演

演題 「重文景のこれから ‐初心忘るべからず、変化・変容恐るべからず」

 講師 篠原修(東京大学名誉教授/平取町文化的景観保全委員会委員長)

令和6年度は、平成16年に文化的景観制度ができてから20年の節目を迎えました。こ

の間、平成18年度の「近江八幡の水郷」を皮切りに、2024年7月現在で72件の重要文化

的景観が選定されています。長年、自身が文化的景観の保護施策に携わってきた中での経

験を踏まえてこの20年を振り返り、未来への展望を語ります。

また、平取町では平成17年度から文化的景観保護推進事業に着手し、自身も関わりながら景観単位や特性等にかかる継続的な調査および重要文化的景観選定、保護施策を推進してきました。平成20年代以降は二風谷コタンの整備に着手し、平成30年度に主要部分が完成しました。

「アイヌの伝統と近代開拓による沙流川流域の文化的景観」は、北海道の歴史特性でもあるアイヌ文化を現代に至るまでとどめながら、開拓期以降の農林業に伴う土地利用がその上に展開することによって多文化の重層を示す文化的景観です。

平取町の地域らしさであるアイヌの伝統と近代開拓、多文化の重層をどのように活かし、守り、発信していくか、自身が地域と関わってきた経験を踏まえて語ります。

 

基調講演2

演題 「沙流川流域の暮らしと土地利用、景観認知」(仮称)

 講師 西山徳明(北海道大学観光学高等研究センター教授)

沙流川流域におけるアイヌの暮らしには、イウォㇿ(山奥、狩り場等)と呼ばれる生活領域があり、小規模集落ごとのイウォㇿが流域全体に連なっていました。流域の最高峰であるポロシㇼ(幌尻岳)は、ポロシㇼの神の居城がある神聖な場所として語り伝えられ、集落によっては重い礼拝の対象として敬意が払われます。

地域に受け継がれてきた本来の土地利用や世界観は、今日的なアイヌ文化継承でもとりわけ大事にすべきことと言えます。

近年、平取町の亜別川流域などで進められている「21世紀・アイヌ文化伝承の森プロジェクト」の事業地や、令和6年6月に指定された「日高山脈襟裳十勝国立公園」の一部であるポロシㇼの麓も、沙流川流域の住民の糧を得るイウォㇿとして受け継がれてきた場所です。本来的な景観認知として、土地の特性に見合った資源の保全や利用を行っていくことが大事であり、今日的な暮らしが変容していく中にあっても不変的な考え方として伝えていくこともできます。

「アイヌの伝統と近代開拓による沙流川流域の文化的景観」が平成19年7月に選定されて以降、調査してきた平取町文化的景観保存・管理計画の策定に向けた議論の内容も含め、沙流川流域の暮らしと土地利用、景観認知について語ります。

 

事例発表

事例発表1 「アイヌ文化の環境保全と文化的景観」

長野環(平取アイヌ文化保存会長/平取町アイヌ施策推進課アイヌ文化保全対策係)

平成15年度以降、沙流川総合開発事業に伴うアイヌ文化保全対策業務が行われ、その中でアイヌの有用植物や地名、チノミシㇼ(我ら・祈る・山)等の調査が行われてきました。その結果は、ダム建設に伴う文化環境アセスメントの成果としても活用されると同時に、文化的景観やイオル再生事業、平取町かわまちづくり等で幅広く生かされています。

また、平取アイヌ文化保存会の活動においても、重要文化的景観に選定された森林や河川域を活用した事業が様々に取り進めています。アイヌ料理の食材採取やアットゥㇱの継承、アイヌ伝承地の保全等をとおした継承活動が行われており、こうした土地の価値付けと保全は平取町らしさを次世代に伝えていく上で一層大事になっていくと考えられます。

事例報告では、こうした文化的景観の保全にかかる長年の諸活動をとおした提言や課題、展望を語ります。

 

事例発表2 「今帰仁村今泊の暮らしと文化継承」

玉城靖(今帰仁村教育委員会社会教育課長補佐)

沖縄県今帰仁村の今泊集落は、今帰仁グスク前面に位置していた旧集落が17世紀前半頃までに移動してできた集落で、琉球列島において発展した独特の風水地理を色濃く残しています。村抱護、浜抱護という考えが取り入れられるほか、屈曲した道路線形や食い違いのある交差点、南向きの家屋配置などが見られます。そして、集落内の特徴ある景観を形成している屋敷を取り囲むフクギは、屋敷に悪気流入や良気流出を防ぐ役割があり、防風・防火等の防災機能も含め、緑豊かな住環境をつくっています。

沖縄固有の信仰に基づく祭祀や芸能は集落移転後も継承され、クバの御嶽や今帰仁グスク内、集落内の拝所、海岸までの地域全体を祭祀空間としています。地域的な慣習や信仰と景観との関わりを良好に伝え、生活や生業の理解に欠くことができない文化的景観となっています。

事例報告では、今帰仁村今泊のフクギ屋敷林と集落景観の概要、今帰仁グスクの管理、年中祭祀や豊年祭の継承にかかる地域の実情を報告いただき、重要文化的景観の価値付け及び保全の意義、今後の課題や展望を語ります。

 

事例発表3 「小菅の里と柱松柴灯神事にみる文化継承の今日」(仮称)

鷲尾恒久氏(小菅神社氏子総代、小菅の文化的景観整備・検討委員会委員)

小菅は長野県北部の飯山盆地東縁に営まれる集落で、小菅山山麓の緩斜面上に広がりま

す。小菅山は7世紀前半に遡る修験の山であり、戦国時代には北信から上越に及ぶ信仰圏を誇ったとされています。小菅集落は修験の霊場として繁栄した元隆寺の防院群の地割が石垣等で区画され、現在も居住地及び耕作地として継承されています。

小菅では、山体崩壊により生じた湧水等を居住地に設えたカワと称する池で受け、洗い

物・消雪等に用いる暮らしがあります。また、集落北方の北竜湖から用水を引き、耕作地の灌漑に利用しています。水路等の維持・管理等のほか祭り等の行事の運営は、オテンマとよばれる集落の共同作業が欠かせません。オテンマは地域共同体の紐帯として機能しています。

先人より受け継ぎ伝えられた伝統文化、芸能の保存継承は、現在も地域一丸となって取

り組まれており、特に3年に一度開催される祭りである「柱松柴灯神事」では、多くの観光客が小菅を訪れます。

事例報告では、「小菅の里及び小菅山の文化的景観」の保全にかかる長年の諸活動や、

神事の継承にかける想いを語ります。

 

交流

アイヌ古式舞踊の披露(平取アイヌ文化保存会)

北海道内各地に受け継がれるアイヌ古式舞踊は、昭和59年1月21日に重要無形民俗文化財に指定されています。保持団体は北海道アイヌ古式舞踊連合保存会を含む18団体で、それぞれの特徴的な舞踊の保護が図られています。

平取町で受け継がれるアイヌ古式舞踊は、昭和58年に結成された平取アイヌ文化保存会が保持団体になっています。昭和60年度にはアイヌ古式舞踊の保護拠点として、現在の二風谷コタン内にチセ(現シネチセ)が建設されました。

平取町の重要な構成要素である博物館チセ群を価値づける特性でもある、アイヌ古式舞踊の披露をとおして、平取町の地域らしさをご覧いただきます。

 

平取町立二風谷小学校との交流

二風谷小学校では毎年、総合的な学習の時間で「ハラㇻキ活動」と名付けたアイヌ文化の学習を行っています。ハラㇻキとはアイヌ古式舞踊の中の「ツルの舞」を表すアイヌ語です。ハラㇻキ活動では「アイヌ語学習」「ハラㇻキ体験活動」「ハラㇻキ調査活動」という3つの学習活動を行っています。令和5年度のアイヌ語授業は年9回、体験活動はアイヌ文様、木彫り・革細工、調査活動は3・4年「アイヌの儀式」、5・6年「アイヌへの差別」について学習しました。

学習成果の一部は10月に行われた学習発表会で披露されました。校歌のアイヌ語バーションを全校生徒で歌い、地域のアイヌ伝承である「オキクㇽミの冒険」や知里幸恵の没後100年を記念した自伝劇などが行われました。

地域の生き生きとした子どもたちの姿が二風谷のアイヌ文化振興に活力を与えています。学校現場の今日をご覧いただき、次世代を育成する意義をともに考えていただければと思います。

 

ポスターセッション

奈良文化財研究所の主催。11/16(土)に開催される分家的景観研究集会(第12回)の一環としてポスターセッションを実施します。ポスターセッションは研究集会のテーマに限らず、営みの風景に関わる日頃の調査研究や取り組みを広く対象とし、成果発信や情報共有の場としていきます。本年度は文化的景観が文化財に位置付けられて20年という節目の年です。これを記念して、全国の文化的景観に関わる自治体で構成する全国文化的景観地区連絡協議会の大会においてもポスターセッションを行います。

8.事前申し込み

不要です。10/24(木)当日に会場へお越しください。

9.問い合わせ

平取町二風谷アイヌ博物館(北海道沙流郡平取町字二風谷55 TEL:01457-2-2892)